今回は少し(かなり?)真面目ネタですので、興味のない方はすっ飛ばしてください。(あ、ただ、現在英会話勉強しよかなと思われている方なら中盤のNatural Approachの記事だけは読んで頂いてもよろしいかと。。。)

先日、リーズ大学の先生が、ブリストル大学からexternal examinerの依頼を受けて来校されていたのですが、この先生から直接我々学生に実際に自分たちが受けている授業内容についての感想や不満を聞いてもらうという機会がありました。そこで私の意見を求められた際にお伝えしたのが、大学院の授業が始まる前に(特に素人が)TESOLという学問を学ぶに当たって、手始めにブリッジコンテンツ(橋渡しとなるもの)のような予習教材があってもよかったのでは?というか、ぶっちゃけあって欲しかったという内容です。

もともと私は学部生時代(と言っても20年ほど前になりますが…(-_-;))は法学部に所属しており、専攻も政治哲学だったので言語学や英語教授法や教育学とは無縁の学生生活を送っていました。そのため、こちらの大学院でいざTESOLの授業が始まってみて焦ったのが自分のこの分野におけるバックグラウンドの無さです。まさにチンプンカンプン・・・

完全に未知の学問をかなり抽象度の高い英文で理解していくというのは想像以上に時間とエネルギーを奪われるため、IELTS対策等でなかなか渡英までに予習の時間を取るのも難しいとは思うのですが、渡航までに「日本語で書かれた文献」で、TESOLに関するある程度の基礎知識をつけておくとおかないのとでは、授業開始後、かなり負担の度合が異なってくるのではなかろうか、と。

そんな訳で、さしあたってホント基礎的な部分なのですが、今振り返った際に私が授業開始までに頭に入れておきたかったな~と思う用語(?)について以下列挙します。「こんなんイロハのイやろ」と言われる方は全く持って不要の記事ですのであっさりスルーして下さい。逆に「これ何?」と言われる方は、以下の用語をググってもらえば色々と記事が出てくると思います。あるいは以下の内容に関するレクチャーを見られたい方はYouTubeで検索してもらえれば色々な講義動画や解説動画がヒットすると思います。

Grammar Translation Method
 19世紀(日本で言えば江戸時代後期頃)あたりからこの名前で定着した教授法で、いわゆる文法中心、訳読中心の英語教授法ですね。ま、日本人にとって最もなじみのある教授法でしょう。ちなみに英語の文献でもYakudokuという用語が普通に使われたりしています。学習塾の英語指導はまさにこれですよね…

Direct Method
 英会話学校で有名なベルリッツの創始者(Charles Berlitz)のやり方がこれですね。母語の徹底排除と第2言語の習得も基本的に第1言語の習得時と同じように行われるべしという考えに基づいています。母語の使用を徹底排除しているので翻訳は否定。文法にも重きを置きません。

Audiolingual Method(ALM)
 20世紀前半になって、ヨーロッパに比べると人気がイマヒトツだったDirect Methodに代わり、アメリカで構造主義言語学と行動主義心理学とを理論的背景として台頭してきた教授法です。もともとのネーミングがArmy Methodであったという事実が示す通り、第二次世界大戦勃発時にアメリカ軍の中で多国籍からなる兵士に手っ取り早く、且つ効率的にaural/oral skillsを身に着けさせるため発達した教授法です。ただ、皮肉なことに、このALMは、その内容の大半が上記Direct Methodのコンセプトからの借り物であったようです。全ての学習が刺激と反応と強化により成立すると考えた行動主義心理学の影響を受けて、刺激と反応に焦点を当てた学習プログラムが組まれました。簡単に言うと、先生主導のパターン練習ですね。

Cognitive Code Learning
 上記ALMの立場(言語学習の本質は反復練習によって習慣を形成することにある)に対する批判的立場から登場した教授法です。これは教授法というよりは仮説なのですが、この仮説の登場に深く影響を与えた人物がNoam Chomskyです。このおっちゃんは要チェックだと思います(授業でも結構突っ込んで説明をしていたので)。ALMへの批判として、無機質なパターン練習をどれだけさせたところでコミュニケーション能力の向上につながらない点や言語の意味が軽視され学習者が飽きてしまう点などへの反省から生まれた、思考中心、生徒主導の仮説と言えるでしょう。

Total Physical Response
 1960年代にアメリカの心理学者であるJames Asherにより提唱された教授法です。日本でも「Simon says~」のフレーズで有名な指導法であると、同じ日本人クラスメイトから聞きました。Asherによれば子供が第一言語を習得する際に、発話の前に大量の聴覚によるインプットを行っている点に注目し、外国語学習においても聞く練習を優先させる方が効果的であると考えたようです。上記のSimon says~に代表されるように、学習者は教師の発する命令文に対して全身を使って反応をするわけですが、身体を使った英語学習は座学に比べて楽しんで英語が学べるという評価を受ける一方で、この教授法の性質上、教師による発話は命令文がメインとなり、複雑な英文を使用する頻度が非常に低くなるため、初級レベルの学習者以外の学習には向いていないという批判もあります。

Natural Approach
 言わずと知れたアメリカの研究者Stephen Krashenにより1980年代に提唱された仮説です。上記Noam Chomskyに影響を受けたこのおっちゃんとNatural Approachは絶対に要チェックと言って良いでしょう(授業で何度も取り上げられました)。何より日本で定期的に蔓延る英語学習法(石川遼くんのアレとか、一昔前ならア○クのヒアリングマラソンとか)の理論的根拠の根幹をなす仮説がこのKrashenのComprehensible Inputなのですから…。ま、その是非はともかく、時間がなくとも、このKrashenだけはチェックしてから渡英してもバチは当たらんかと。で、このKrashenについてある程度調べたら、必ずLongのInteraction HypothesisとSwainのOutput Hypothesisに行き着くので、この2人の主張を読めば、あの日本人英語学習者を常に魅了してやまない魔法のフレーズ「聞くだけでOK。ある時急に口から英語が・・・」というあのキャッチフレーズがいかに胡散臭いものかがわかるかと…(-_-;)。

Communicative Language Teaching(CLT)
 で、なんだかんだで、結局のところ現代英語指導の趨勢はこのCommunicative Language Teachingなのですよね。既存の外国語教育(Grammar Translation Method)や上記ALMに対する反発として、1970年代に生まれたCLTはその名の通り、言語指導の目的を単に正確な言語を話すため(ALM)ではなく、言語をコミュニケーションの手段として使用できるように訓練することをその中心目標に掲げています。ここで注意が必要なのは、CLTはALMのような一つの確定した教授法ではなく、むしろ色々な教授法のベースとなりえる概念・アプローチであるという点です(しかもかなり包括的な概念であるため、weak formとstrong formの二つが存在する始末…(-_-;))。日本の中学、高校でもグループワークやペアワークを用いるなどのテクニックがよく使われるそうなのですが、非常に興味深いのが、クラスメートの日本人イケメン君(高校の先生)の「留学帰りの先生がやたらと*Task-Based(下記参照)をやりたがるんですけど、皆決まって失敗してるんですよね・・・」というコメントと、同じくもう一人の熱血男児(中学の先生)の「新米の若い先生がCLTをやると十中八九、学級崩壊を起こすんですよ・・・」というコメントです。なんかわかるような…(-_-;)。これって英語指導という範疇を超えて、ある意味cultural differenceによるもんとちゃうのかな?とも思ったりするわけですが。。。そんなこんなで、なかなか世界で趨勢となっているCLTの実践が日本の英語指導においては難しかったりするようです。ま、間違っても進学塾でこのCLTは実践できんわな…(-_-;)

Task-Based Instruction
 CLTのアプローチに基づいた具体的な教授法ではあるのですが、もう少し突っ込んで言うと、上記Krashenの批判者であるLongとSwainの主張を満たした教授法がこのTask-Based Instructionと言えるでしょう。Longは言語習得にはコミュニケーションを図っている相手と意味を確認したり意見を述べ合ったりする意味交渉(negotiation of meaning)が必要であると主張しており、一方のSwainは学習者が習得しようとしている言語を口に出したり書いてみたりして実際に使用すること(output)が言語習得に当たっての必須条件であると主張しています。で、この二人の主張をまとめると、第2言語習得のステップとして必要なのはインプット→話者間のインタラクション→アウトプットである、と。で、これらの要素を満たしているのがこのTask-Based Instructionである、と。簡単な例を一つ出すとすれば、生徒たちをグループに分けて「どこか旅行に行く計画を立てなさい」というやつです。もちろん使用言語は英語です。すると彼ら/彼女らは「どこ行く」「どうやって行く」「どこ泊まる」などの旅行計画(Task)を英語でこなしていくわけです。ま、この類の授業は導入当初はその目新しさも手伝って生徒受けするのかもしれませんが、受験学年ともなってくると文法や構文にもっと焦点を当てた授業をしてほしいという要望が出たり、本当に受験に役立つのかといった不安の声が生徒から出てくるそうな…(-_-;)

Content-Based Instruction 
 これもCLTと原理を共有できる教授法と言えるでしょう。第2言語を用いて理科や社会などの通常の科目(content)を学習者に教え、そのプロセスの中で第2言語を習得させることを目標としています。カナダのイマージョン(どっぷり浸すこと)教育などもこのContent-Based Instructionの一つと言って良いでしょう。ま、分かりやすい例として、家族の海外赴任などに付いて行った子女が現地で日本人学校ではなくローカル校に入ったらまさしくこの状況ですよね。ただ、これは想像に難くないですが、科目のレベルと学習者の能力が合わなかった場合、学習者には相当のフラストレーションがたまるのと、その当然の結果として上達が見られずやる気をなくすという問題を引き起こす危険性がありますね。